ニワカ映画研究所

映画鑑賞にはまり始めてはや数年、、日々鑑賞した映画をニワカ知識なりにレビューしていくブログです。公開中のものから過去作も!面白い映画を探す参考にしてください。

【最高のクオリティ】この世界の片隅に【最悪の歴史】

 

皆さんご無沙汰しております。

ニワカ映画研究所です。

 

今回取り上げる作品はこちら!

 

『この世界の片隅に』

 

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公開されると同時に、口コミにて

動員数を大きく伸ばし

 

公開される劇場は少ないものの

各所でロングラン公演やリバイバル公演が

行われるなど

 

かなり評判の今作。

 

その評判を噂には聞いていたものの

何だか興味がわかず

これまで見ずにいた私。

 

アマゾンプライムで公開されていることがわかり

何の前情報も知らずに鑑賞したのですが、、、

 

 

「一体これは何なんだ、、」

 

作品のクオリティの高さ

度肝を抜かれ

しばらく呆然としてしまう私。

 

ようやく言語化できそうなほどに

落ち着いてきたので

レビューを始めます。

 

 

 1.監督

 

監督は片渕須直

 

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日本アニメーション界にて

様々な作品の制作に関わってきました。

 

以下片渕監督が制作に関わった作品を

たくさんの作品の中から

ざっとピックアップしてみます。

 

・名探偵ホームズ

・私のあしながおじさん

・トラップ一家物語

・ちびまる子ちゃん

・カードキャプターさくら

・忍たま乱太郎

・MONSTER

・かいけつゾロリ

・BLACK LAGOON

・魔女の宅急便

     etc、、

 

スタジオジブリの一員でもあった

片渕監督。

 

『魔女の宅急便』では製作途中まで

監督を務めるも、宮崎駿の復帰に伴い

演出補佐へと退いています。

 

また『BLACKLAGOON』では

監督、シリーズ構成、脚本も務め

片渕監督の代表作の一つと言えます。

 

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『BLACKLAGOON』でも存分に発揮された

武器マニア、軍ものマニア具合が

『この世界の片隅に』でも

様々な描写で生かされています。

 

2.キャスト

・北條すず/のん(能年玲奈) 

 

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今作は、のんちゃんの演技がとても素晴らしく

作品のクオリティーを何倍にも引き上げています。

 

日頃からおっとりした、

悪く言えば「とろい」すずさんが

 

理不尽な社会に徐々に押しつぶされ

自分を見失う様を

柔らかい声色の中に

リアルさももって演技しています。

 

のんちゃんの柔らかい声でなければ、

この作品はあまりにも

残酷になってしまいますし、

玉音放送後、家を飛び出し泣き叫ぶシーンは

日本アニメ史に残る

名演技と言っていいほど圧巻です。

 

北條 周作/  細谷佳正(ほそやよしまさ)

 

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これまで数えきれないほどたくさんのアニメ、映画吹替に

出演している超人気声優さんが担当します。

テニスの王子様の白石蔵ノ介を演じ、知名度を上げた後

様々な作品でメインキャラクターを務めます。

 

爽やかな青年から熱血漢、人間味の薄い少年など

演技の幅は広く、ナチュラルな芝居が持ち味だそうです。

 

・水原 哲/小野大輔(おのだいすけ)

 

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オノDの愛称で親しまれる、こちらも

超人気声優さんです。

 

出演作は数知れず。。。

 

殆どの作品でメインキャラクターを演じる

人気、実力ともに業界随一の方です。

アニメが好きな方は、必ずどこかで

聞いたことがあるはず!

 

他にも実力のあるキャスト達が

表現豊かに、かつナチュラルに

それぞれの人物を演じます。

 

 

3.あらすじ

 

1940年頃の広島周辺を舞台とした、

すずさんという一人の女性を主人公とした

半生を描いた物語。

 

 

広島市にて、物は豊かではないものの

楽しく暮らす浦野一家。

長女の浦野すず

おっとりした、マイペース

女学生でした。

 

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そんなすずが大好きなのは絵を描くこと。

瀬戸内の海のきらめきを

「白いうさぎが跳ねているよう」

表現する程色彩感覚も優れているすず。

 

すずの生活は他人に、周りに

流されるまま、飄々としています。

 

そんなすずにも転機が。

 

 すずに、顔も名前も覚えがない男性から

結婚の申し出があったのです。

 

突然の出来事でした。

広島市から呉市へ身を移すすず。

 

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嫁ぎ先の住所も知らないままやってきた

すずさんも、彼女なりにその土地で

必死に暮らしていました。

 

畑からみえる港に停泊する

戦艦たちを眺めるすずと夫の周作。

 

戦争とはなんぞやら、と生活していた

彼らにも戦火はすぐそこまで迫っていたのです。

 

 

配給される食材はどんどんと少なくなる中

それでも何とか工夫するすず。

 

おいし、、、くはなかったものの

その生活を受け入れ生きていました。

 

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姪の春子と畑にでていたある日の朝。

山の向こうで、

どん、どんという音とともに

勢いよく何本もの煙が立ち上ります。

 

立ち尽くすすずと春子

 

その上空を何機もの

戦闘機が迫ってきます。

 

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叔父の助けにより何とか逃げ延びたものの

それから呉は、寝ても覚めても

空襲警報のサイレンが鳴り響きます。

すず達は防空壕で空爆におびえながら

だんだんと憔悴していきます。

 

すずは身近な人の死

自身のケガどれだけ耐えようと

変えられない自分の人生や社会の理不尽

もう限界を迎えていました。

 

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原爆の投下、後に終戦。

 

自分たちとは関係のない出来事

自分たちを追い詰めていく

 

それでも御国のために、と

踏ん張ってきたはずが

これまたあっけなく終わりを告げる。

 

「私たちは国に支配され、次はアメリカに

支配されなければならないのか」

 

「暴力で支配してきた国は、暴力で支配

されなければならないのか」

 

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それでもすずは自分の幸せを探し

生きていくのです。

 

 

4.舞台となった「呉市」はどこ?

 呉市広島の南西部にあり、

瀬戸内海に面した港町です。

 

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瀬戸内海は自然災害が少ない

とても穏やかな海域であり

 

呉は古くから漁業の盛んな街でした。

 

明治時代には

第二海軍区鎮守府が開庁されます。

鎮守府っていうのは簡単に言うと

海軍の軍事拠点のことです。

 

戦前は呉市の海軍工廠(こうしょう)において

世界最大の戦艦でもある大和などがつくられ、

東洋一の軍港・日本一の工廠として知られていました。

 

工廠軍事工場のことです。

 

とにかく、呉市は軍事的にかなり

重要な場所の一つだったようです。

 

5.料理の描写

まず是非注目してもらいたいのは

作中の料理シーンです。

 

すずさんが、少ない配給をもとに

工夫しながら楽しんで料理をする様子

まるで音楽を奏でているかのようです。

 

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時にはうまくいかない料理もありますが、、。

 

当時は戦時中だったこともあり

食料品は多くが配給制でした。

その配給だけではもちろん一家全員の

お腹を満たすことは出来ません。

 

そのため、自分の畑だけではなく

道端や土手に生えている野草を摘んで

食べていた家庭も多かったようです。

 

作中でのソフトな表現では伝わりづらい

ですが、これってつまり食糧飢饉ですよね。

 

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市民レベルでは食事という

生きるうえで絶対に必要な要素

かなり危機的な状況でした。

 

それでも何とかしようとする

すずさんの姿勢に感服です。

 

6.人と自然

作中で、虫や鳥、動物たちの様子が一瞬といいほど

短時間で描かれるシーンが何度か出てきます。

 

この自然の生き物たちは、人の生活や

社会情勢、というか戦争ですね、

この戦争の影響を全く受けていないように

見せられています。

 

人間がどんなに争おうと、殺しあおうと

自然はありのままで、

自然は「自然」なままでそこにある。

 

人間の小ささが際立って感じられる

作りになっているのでしょうか。

 

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7.銃撃シーン、戦争描写のリアルさ

片渕監督が軍モノ、戦争モノに詳しいことは

先程お伝えしましたが

 

この作品もその描写がやけにリアル

日常生活のシーンがコントラストになって

よりそのリアルさが強調されています。

 

戦闘機を主観にして機関銃を撃つシーン

特にそれが際立っていたかなと思います。

このシーンのスピード感画角のバランス、

静と動の使い分け

スタジオジブリの雰囲気を感じさせられました。

 

他にも、空爆の煙がカラフルに表現されるシーンが

あるのですが

これは当時実際に弾の着弾点や、どの機がどの弾を撃ったのか

判断するために、赤や青といった色の煙が出る弾が使用されることも

あったようです。

 

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8.戦時中の人々の暮らし、街並みの再現

もう一つ注目してもらいたいのは

1940年代前後街並みの再現度です。

 

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どのシーンにおいても、当時の街並みが

綿密に再現されています。

 

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これは監督が実際に当時の街並みがわかる

資料をかき集め、当時を知る方々に取材などを

繰り返すことで実現したそうです。

 

安っぽいアニメにありがちな

張りぼてのような背景ではなく

 

人々の暮らしが垣間見えるような

深みや立体感があります。

 

これは実際に作品を見ていただいた方が

わかりやすいと思いますが、、。

 

この「背景」というのは

建物などの様子だけではありません。

そこに暮らす人々

時にはワイワイガヤガヤと

時にはシクシクエンエンと

 

それぞれに感情をもち生きている

様子が見て取れます。

 

アニメーションとして

同じ画面で、別々の人間

同時にバラバラに動すこと

かなり難易度が高いと言われています。

 

地上波で放送されているアニメなどを

見てもらえればわかるかと思いますが

 

主要な人物以外は動いていないことが

多いはずです。

 

何ならキャラクターの口しか動いていない

シーンなんてざらにあります。

(これが日本アニメ的な表現ともいえるのですが、、)

 

逆にアニメーションとして評価されている

作品をみていただくと

 

恐ろしいほど細部に至るまで

綿密に、不規則に

時には関係性をもって

 

モノや人が動いています。 

 

最近の作品では『風立ちぬ』での

 

人の往来を引きでみたシーンなどは

わかりやすいかと思われます。

 

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 今作でそれがわかりやすいシーンは

すずが砂糖を買うために

闇市に行くシーンですね。

 

戦時中で節制が叫ばれた時代とは

思えない程人でごったがえし

活気であふれる闇市

 

こちらも多くの人の往来を

詳細に描いています。

 

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9.この映画の持つ意味

 

 これはあくまで私が感じたことなのですが、、

更に本当に当たり前のことなのですが、、

 

戦争がもたらしたものって一体なんだったのか。

 

このことを「一般市民レベル」ではどんな

影響があったのか。

 

つまり

「世界の片隅」では何が起きていたのか。

 

 

この鉛のように重たいテーマを

すずさんという一人の人物にフォーカスして

映画を観たものそれぞれに

ずしんと問いかけてきます。

 

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すずさんはただ自分の人生を

幸せに生きていたはずです。

 

周りに流されたり

義理の姉にいびられても

それでもなんとか

やってきたはずです。

 

しかし戦争がそれを許しませんでした。

 

自分の住む場所が戦火にさらされることで

安心してそこに住むことはできません。

 

満足に食事をすることもできません。

 

戦争で兄は死に、

夫や幼馴染も命の危険に晒されます。

 

大好きだったはずの

あることをきっかけに一生

書くことが出来なくなりなした。

 

戦争がなければ

幼い姪っ子は死ななかったはずです。

 

戦争がなければ

原爆が落とされることはなかったはずです。

 

戦争がなければ、、

 

戦争がなければ、、

 

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大勢の死者を出し

こんなにも多くの人を苦しめた

「戦争」という手段。

 

世界中の人々が

多くの命と時間を引き換え

やっと「戦争をしない」という

時代にまでやってきました。

 

なのに世間には

戦争という手段

再び持ち出して

何かを企む人たちがいます。

 

我々一般市民は

またそれに従わなければ

ならないのですか?

 

国が一部の特権階級の利益のために

大きく舵を切ったとき

何も言わずただそれについていくのですか?

 

何も言わない、何も主張しない。

そうすることは美徳だと刷り込まれてきた

我々に本当は決める権利があるのです。

 

本当の平和とは

ただそこにあるのではありません。

 

誰かによって

壊されたり、奪われたり

偽物にすり替えられたりしないよう

みんなの手で守ることで

ようやく形となるのです。

 

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まずは自分のために、

そして身近な人の為に。

さらには世界のみんなの為に。

 

何度でも平和とは何か考え

次の世代のためにも

平和を守っていきたいですね。

 

10.最後に

 

この様なテーマを扱うとき、

結局、結論はぼやけて焦点の当て辛い

概念的なものになってしまいます。

 

正直「平和」なんて

正解は人それぞれだし

そもそも正解なんてありません。

 

一般に正解とされるものは

時代によっても

によっても

コミュニティによっても

変わるものだからです。

 

ただ、そうであったとしても

「平和」において絶対に変わらない

要素もあるはずです。

 

その要素が想像できない人は

自分の子供に、自分の次の世代に

どんな世界で暮らしてほしいか

考えてみてください。

 

そうすることで

何かが変わるかもしれませんから。

 

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 今回は以上です。

最後までご覧いただきありがとうございました。